竹村幸(競泳元日本代表・パラ水泳日本代表コーチ)

食べたもので体は作られる アスリートの食事術を取り入れて毎日をエネルギッシュに!

はじめまして。元競泳日本代表の竹村幸です。
私は6歳から水泳を始め、31歳まで現役選手として競技を続けました。水泳の世界では、30歳を超えてなお現役を続けることは珍しく、いわゆる"ベテラン"の域を超えていました。それでも、私が長く競技を続けられたのは、「食」を大切にしていたからだと感じています。

毎日の食事が、体やパフォーマンス、そして心に与える影響は計り知れません。私は競技人生を通して、その大切さを身をもって学びました。


未来の自分をつくるのは、今の自分

目標に向かって、どうなりたいのかを考え、日々の選択を積み重ねる。これは私がアスリート時代に大切にしていた考え方です。


パフォーマンスを上げるために、体を絞り食事量を制限するべきかどうか、迷うこともありました。しかし、体が欲するエネルギーを適切に摂取することで、パワーが落ちるどころか、むしろ高いパフォーマンスを維持できることも学びました。(注1)極端な食事制限をすれば一時的に体重は減るかもしれませんが、それが必ずしも良い結果につながるわけではありません。(注2)


アスリートの方以外にも言えることは、極端な食事制限を行ったのちに栄養が足りず、体力や集中力が低下することもあると思います。(注3)


また、日々の食事バランスが崩れると、練習中の動きに明らかな影響が出ました。疲れが抜けにくくなり、風邪をひく回数も増える。例えば、炭水化物や脂質を極端に減らせば、練習の最後まで頑張りきれず、(注4)タンパク質が不足すると筋力の回復が遅れる。(注5)栄養バランスを意識することが、アスリートにとっていかに重要かをアスリート活動の中で身に染みて実感したのです。


さらに、「食」は単に体を支えるだけでなく、心のコンディションにも影響を与えます。美味しい食事を楽しむことで気分が上がり、翌日の活力にもつながる。(注6)「よし、明日も頑張ろう!」そう思える食事を意識することも、大切なポイントの一つです。


そして、引退後に改めて気づいたのは、この視点はアスリートだけでなく、すべての人にとって重要だということ。毎日を充実させたい、よりよい自分になりたい—そう願うすべての人に、"今"をどう生きるかが未来を形作るのだと伝えたいと思っています。


竹村幸さん

アスリートの食事から学ぶ、日常への応用

「アスリートの食事」と聞くと、特別なメニューや厳しい栄養管理を思い浮かべるかもしれません。でも、大切なのは特別な食事ではなく、その考え方を日常に取り入れること。ちょっとした意識の変化が、体調を整える良いきっかけになります。(注7)


例えば、「毎日を元気に過ごすために食事を意識する」という視点。アスリートが競技に向けて体を整えるように、私たちも仕事や勉強、家事、趣味、遊びを思いきり楽しむために、食事の選び方を少し工夫するだけで、より快適に過ごせるようになります。(注8)


毎日を全力で楽しむために、ぜひ、食事を選ぶときに少しだけ意識を向けて、自分の体と心が喜ぶものを取り入れてみてください。


血糖値が上がりにくい食事を選ぶ

忙しい日々の中で、ついご飯を菓子パンなどで済ませてしまうことはありませんか?アスリートは練習や試合に備え、エネルギー源となる炭水化物や脂質をバランスよく摂取することを心がけています。(注9)


一般の方にとっても、炭水化物や脂質を適量摂取することで、集中力を維持するのに役立つ可能性があると考えられ、日々の疲労感を軽減させることが期待でき、快適な生活をサポートすることができます。(注10)


菓子パンなどは手軽に食べられる反面、食後の血糖値の変化には個人差がありますが、一部の研究では、食後の血糖値の変化が覚醒度や注意力に影響を与える可能性が指摘されています。(注11)


菓子パンに対し、穀物や豆類は、一部の研究で血糖値の上昇が緩やかだと報告されている食品の一例です。(注12)こうした食品を適切に取り入れることで、日々の食事のバランスを整えることにつながると感じています。


バランスの良い栄養摂取

アスリートは筋肉の修復や成長のために、タンパク質を意識的に摂取しますが、これは一般の人にも欠かせません。(注13)良質なタンパク質を摂ることは、筋肉の修復を助けるとされており、(注14)日々のコンディション維持にも重要です。


また、タンパク質は免疫機能や神経伝達に関与するとされており、(注15)健康維持のために重要です。特に鶏むね肉、卵、魚などは良質なタンパク質を含み、消化吸収も良いため、日常的に取り入れやすい食材です。(注16)


さらに、健康的な体を維持するためには、ビタミンやミネラルの摂取も重要であると考えています。(注17)ビタミンB群はエネルギーの代謝を助け(注18)、ビタミンCやEは疲労回復や免疫力維持に役立つと言われています。(注19)特に豚肉、穀物、卵などを意識的に摂取していました。ビタミンCは赤パプリカ、キウイ、柑橘類に多く含まれ、健康維持に重要な栄養素とされています。(注20)また、ビタミンEはアーモンドやアボカド、かぼちゃに含まれており、脂溶性ビタミンとして健康維持に役立つ栄養素とされています。(注21)


食事のバランスを意識し、タンパク質とビタミン類を適切に組み合わせることは、健康的な生活を支える要素の一つとされています。疲れたときこそ、しっかり食べて、体を労わってあげることが大切ですね。


「なりたい自分」を意識した食選び

アスリートが「試合で最高のパフォーマンスを出す」という目標を持つように、私たちも「健康で疲れにくい体になりたい」「仕事の集中力を高めたい」など、それぞれの目標に合わせて食事を選ぶことができます。例えば、夜にぐっすり眠りたいなら、カフェインを控えて消化の良いものを選ぶ。肌の調子を整えたいなら、ビタミン豊富な食材を意識する。(注22)


ちょっとした意識の違いが、健康的な生活を支える一助となるかもしれません。(注23)


さらに、体調やライフスタイルに合わせた栄養の摂り方を意識することが、日々のコンディションを整えるための一つの方法となります。


集中力を維持したいときは、脳のエネルギー源となる炭水化物(穀物、全粒パン、オートミール)を取り入れるのがおすすめ。(注24)また、神経伝達物質の生成を助けるDHAが豊富な青魚(サバ、イワシ、サーモン)を積極的に摂ることも効果的とされています。(注25)朝食にナッツやヨーグルトを加えることで、エネルギーの維持に役立つと考えられています。(注26)


また、疲労を感じたときには、鉄分を含む食品(赤身の肉、レバー、ひじき)や、食事のバランスを意識することが大切です。(注27)また、クエン酸を含むレモンや梅干しは、日々の食生活に取り入れやすい食材のひとつです。(注28)


食事は毎日の積み重ね。なりたい自分をイメージしながら、少しずつ食の選び方、バランスの取れた食生活を意識することで、より健やかに過ごすことが期待できます。(注29)


ストレスを和らげるためにも、食事の選び方は重要で、セロトニンは、精神的な健康に関わる神経伝達物質であり、その合成にはアミノ酸の一種であるトリプトファンが必要です。(注30)バナナや豆類は、トリプトファンを含む食品として知られています。(注31)そして、心を落ち着けるためには、温かいスープやハーブティーもリラックス効果が期待されます。(注32)食事は毎日の積み重ね。なりたい自分をイメージしながら、少しずつ食の選び方、バランスの取れた食生活を意識することで、より健やかに過ごすことが期待できます。


現役時代の食事

(写真:現役時代の食事)

忙しくてもバランスよく食べるコツ

「食事が大事なのはわかっているけれど、仕事や家事が忙しくてなかなか時間が取れない…」そんな方も多いのではないでしょうか?忙しい日々の中でも、ちょっとした工夫でバランスの取れた食事を摂ることができます。(注33)ポイントを押さえて、無理なく健康的な食生活を続けていきましょう!


まとめて作る「作り置き」

忙しいとつい食事を簡単に済ませてしまいがちですが、作り置きを活用すれば、手軽に栄養バランスの取れた食事を摂ることができます。冷蔵・冷凍しておけば、忙しい日でも手軽にバランスの良い食事が取れます。

コンビニでも選び方を工夫する

コンビニ食=偏った食事になりがち…と思われがちですが、組み合わせを工夫すれば栄養バランスを整えることができます。(注34)


・おにぎり+ゆで卵+サラダ(炭水化物・タンパク質・ビタミンをバランスよく)

・豆腐サラダ+スープ+サバ缶(良質な脂質&タンパク質) (注35)

・バナナ+ヨーグルト+ナッツ(間食としてもおすすめ)


また、お茶や水を選ぶ・ジュースや甘いコーヒーを控えるといった工夫も、健康的な食生活を続ける上で意識したいポイントです。(注36)

外食でもちょっとした工夫を

外食が続くと、どうしても栄養が偏りがち。そんなときも、ちょっとした工夫でバランスを整えられます。


・ 丼ものはご飯の量を調整し、野菜を追加する(サラダや味噌汁をプラス)(注37)
・揚げ物中心のメニューより、焼き魚や蒸し料理を選ぶ(注38)
・定食スタイルを選び、主食・主菜・副菜のバランスを意識する(注39)
・飲み物はジュースよりも水やお茶を選ぶ(注40)


食事は「何を食べるか」だけでなく、「どう食べるか」も大切です。(注41)忙しい日々でも、少し意識を変えるだけで、健康的な食生活を期待できます。

日々の食事は、未来の自分への投資

これまでお伝えしてきたように、「食べたもので体は作られる」というのは、アスリートに限らず、すべての人に当てはまる大切な考え方です。食事は、体を動かすためのエネルギー源であると同時に、心のコンディションを整え、日々のパフォーマンスを左右する要素でもあります。


食事と向き合うことは、未来の自分をつくること。毎日の積み重ねが、健康的で活力ある生活へとつながります。だからこそ、無理なく続けられる形で、少しずつ食の選び方を意識してみてください。


特別な食事や厳しいルールに縛られる必要はありません。忙しい日でも、作り置きを活用したり、コンビニや外食でバランスの取れた選択をしたりするだけで、栄養バランスは整えられます。そして、時には「自分の機嫌が良くなる食事」を楽しみ、食べることそのものをポジティブに捉えることも大切です。


「未来の自分をつくるのは、今の自分。」


一つひとつの食事を大切にしながら、毎日をエネルギッシュに過ごしていきましょう!「ちょうどいい食事習慣」を見つけることが、心身ともに健やかで充実した日々につながるはずです。

注釈

厚生労働省 (2014). 「身体活動と食生活に関する調査結果」(注11・32)

厚生労働省 (2016). 「健康日本21(第二次)」(注7・23・38)

厚生労働省 (2017). 「ビタミンとミネラルの役割」(注14・15・17・18・29・41)

厚生労働省 (2018). 「運動習慣と健康」(注8・33・40)

厚生労働省 (2019). 「スポーツ活動と食事」(注2・5・13・26)

厚生労働省 (2020). 「食事と健康」(注3・12・16・19・20・21・22・35)

厚生労働省 (2020). 「若年層における栄養摂取の重要性」(注27)

厚生労働省 (2021). 「食事摂取基準(2020年版)」(注1・4・9・24・37)

厚生労働省 (2022). 「国民健康・栄養調査」(注10・39)

厚生労働省 (2023). 「食育基本法」(注6・34)

山梨県厚生連 「セロトニンを増やす方法とは?トリプトファンを含む食品と効果的な食事法」(注30・31)

Yamashita, T., et al. (2017). "DHA and cognitive function in aging populations." Journal of Nutritional Neuroscience.(注25)

Kondo, S., et al. (2018). "Citric acid and fatigue recovery: A systematic review." Nutrition & Metabolism.(注28)

Matsuo, T., et al. (2016). "Effects of sugar-sweetened beverages on metabolic health." Journal of Clinical Nutrition.(注36)

竹村 幸(Miyuki Takemura)

競泳元日本代表・パラ水泳日本代表コーチ・一般社団法人ASUWA理事・ライター

大阪府出身。競泳日本代表として数々の国際大会に出場。引退後は指導者として、パラ水泳日本代表のコーチを務める傍ら、一般社団法人ASUWAの理事として、「明日はもっと明るい」をテーマに、子どもたちに向けたスポーツを通じた“きっかけづくり”に取り組む。ライターとしても活動し、スポーツ・教育分野を中心に執筆・講演を行っている。

 

Instagram: miyuki_t_725