竹村幸(競泳元日本代表・パラ水泳日本代表コーチ)

食べたもので体と脳は変えられる。アスリート流・食習慣のアップデート

「食べたもので体は作られる」——これは、アスリートとしての私が現役時代から大切にしてきた考えのひとつです。最近、この言葉に新たな意味を加えるような出来事がありました。


先日参加したトークイベントのテーマは、「その一口が、体と脳を作り換える」。登壇されたのは、元アメリカンフットボール日本代表のコンディショニングデザイナー・前田眞郷さん、そしてプロラグビー選手の金 正奎さんと石井 魁さん。現役アスリートとしての経験をもとに、彼らが日々実践している「食」との向き合い方が紹介されました。


このイベントは、現在紹介制で運営されているウェルネススクールの一環として開催されたものです。このスクールには、前田さん・金さん・石井さんの3名がコーチとして関わっており、参加者は10代から60代までと幅広く、それぞれのペースで「身体」「心」「習慣」に向き合っています。日々のアウトプットや変化を共有し合うその様子は、見ている側にもポジティブなエネルギーが伝わってくるものでした。


イベントでは、アスリートならではのリアルな体験が語られ、私たちのような日常を生きる人々にも多くのヒントがちりばめられていました。今回は、その中でも私自身が実際に取り入れて、「心身ともに以前より体の変化を感じやすくなったと感じる習慣」と実感した習慣をいくつかご紹介したいと思います。


「良質な脂質=悪者」ではない。脳と神経を動かすエネルギー

左から、石井さん、金さん、前田さん

(写真:左から、石井さん、金さん、前田さん/本人提供)

イベントの中で最も印象に残ったのは、「良質な脂質」への新たな視点でした。


脂質は「太るもの」「控えるべきもの」と思われがちですが、 実は体を動かすためのエネルギー源として欠かせない栄養素のひとつ。※1  さらに、 脳や神経の働きを支えたり、筋肉やホルモンの材料となったりと、体の内側でさまざまな役割を果たしていると言われていました。※2つまり脂質は、単にエネルギーを補うものではなく、体をより良く働かせるために必要な“素材”でもあるのです。


そこで私は、まず朝食から見直すことに。グラスフェッドバターとMCTオイルを加えたバターコーヒーに、スクランブルエッグを組み合わせた、シンプルな脂質中心のメニューに変更。はじめは半信半疑でしたが、数日続けてみると、午前中の集中力が持続しやすくなったり、肌の乾燥を感じる頻度が以前より少なくなったように思えました(※これはあくまで私個人の体験であり、すべての方に当てはまるものではありません)



「普段と違うことを、なぜ本番でやるのか?」

イベント中に投げかけられた「試合前に普段と違う食事をとるのは、本当に効果的なのか?」という問いの中にも、大きな気づきがありました。


アスリートの世界では、「試合前にパスタでカーボローディング(運動時にエネルギー源となる糖質<グリコーゲン>を体内に多く蓄えるための食事戦略)をする」「おにぎりやうどんで糖質を補給する」といったルーティンが一般的です。これらの方法には一定の科学的根拠があるものの、同時に「普段と違うものを急に取り入れることのリスク」についても考える必要があります。


実際、日常的に取り入れていない食事を本番直前に摂取したことで、体調を崩す選手も少なくありません。私自身も中学生の頃、試合前日に炭水化物をたくさん蓄えようと、普段より多い量のパスタを食べた結果、翌朝体が重く感じられ、思うような結果を残せなかった経験があります。


こうした話は、アスリートに限らず、私たちの生活にも当てはまります。たとえば、「ここぞ」というプレゼンの前日にだけサプリメントを多めに取ったり、朝食を急にパンに変えてみたり。こうしたその日限りの変化が、逆に体調や集中力に影響を与えてしまうことがあると、私は感じています。


大切なのは、日々の積み重ね。目の前の大切な瞬間に向けてこそ、日頃からの習慣がものを言います。体と心を整えることは、急な工夫ではなく、日常の中にこそヒントがあるのだと、あらためて気づかされました。


食は、引退後も最高のパフォーマンスを支える

現役時代と違って、今は「誰かに勝つ」ためではなく、「自分らしく、心地よく過ごす」ために、食事と向き合うようになりました。


とくに午後のデスクワークや長時間の打ち合わせなど、かつてはエネルギー切れを感じやすかった時間帯でも、脂質を適度に取り入れるようになってからは、集中力が長く保てるように。血糖値の変動が穏やかになったからか、気分の浮き沈みも少なくなった気がします。


そして重要なことは、「何を食べるか」だけでなく、「何を食べないか」という選択も、同じくらい大切だということ。手軽な食事が身近にあふれる今だからこそ、少しの意識で食は自分の味方にも、時には負担にもなり得るのだと思います。


白米を玄米に変えてみる。加工品ではなく発酵食品を選ぶ。大豆製品を積極的に取り入れる。そんな小さな選択の積み重ねが、自分のパフォーマンスを底上げしてくれるのだと感じています。


自分の体と心に合う“ちょうどよさ”を見つけよう

アスリートのように特別な管理をする必要はありません。でも、「自分の調子がいいときって、どんな食事をしていたかな?」と少し立ち止まって振り返るだけでも、食との向き合い方は変わってくると思います。


私の場合、朝は脂質とタンパク質を中心に、昼は炭水化物も含めてバランスよく、夜は消化の良い軽めの食事を心がけるようになりました。そうすると、翌朝の体の軽さや、1日のスタートのしやすさが違うんです。


もちろん、毎日完璧にやるわけではありません。あくまでも“自分の体と相談しながら、ちょうどいいバランスを探す”。それが、今の私なりの「アスリート流・食習慣」です。


体を整えるだけでなく、思考のクリアさや気持ちの安定感にもつながる「食」の力。食べることをただの“栄養補給”ではなく、“自分をアップデートする習慣”として捉えると、日々の食事に対する意識も自然と変わってきます。


「体と脳は、食べたもので変えられる。」


そう信じて、今日の一口から、自分自身をアップデートしていきませんか?


イベントでの集合写真

(写真:イベントでの集合写真/本人提供)

今後のイベント情報は、YouTubeや各種SNSを通じて発信予定とのことです。また、このウェルネススクールとは別に、スポーツクラブや部活動を対象とした出張講習やワークショップも定期的に開催されています。


「心身の整え方」や「パフォーマンスの土台」を見直すきっかけとして、多くの方にとって学びの多い場となっているそうです。ぜひ、SNSなどで最新情報をチェックしてみてください!


<お問い合わせフォーム>

https://forms.gle/4wKyA9m2pVNhYrAs5 


注釈

※1

厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000041836.pdf


※2

厚生労働省「日本人の食事摂取基準」https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

前田 眞郷

前田 眞郷(まえだ しんご) 氏

元アメリカンフットボール日本代表コンディショニングデザイナー

食・運動・思考習慣など多角的なアプローチで、心身を最適化するコンディショニングデザイナー

https://www.instagram.com/shingomaeda_official?igsh=cjNmYWJ3bmZvYXdu

https://x.com/shinnnn22?s=21 

金正奎

金 正奎(きん しょうけい)氏

プロラグビー選手/浦安D-Rocks

https://x.com/shokei1003?s=21

https://www.instagram.com/shokei1003/ 

石井 魁

石井 魁(いしい かい)氏

プロラグビー選手/浦安D-Rocks

https://x.com/0k8a0i4?s=21

https://www.instagram.com/kai_ishii84/


竹村 幸(Miyuki Takemura)

競泳元日本代表・パラ水泳日本代表コーチ・一般社団法人ASUWA理事・ライター

大阪府出身。競泳日本代表として数々の国際大会に出場。引退後は指導者として、パラ水泳日本代表のコーチを務める傍ら、一般社団法人ASUWAの理事として、「明日はもっと明るい」をテーマに、子どもたちに向けたスポーツを通じた“きっかけづくり”に取り組む。ライターとしても活動し、スポーツ・教育分野を中心に執筆・講演を行っている。

 

Instagram: miyuki_t_725