ルピナス豆

大豆にとって代わる日も近い?プラントベースフードとして注目の「ルピナス豆」とは?

約2000年前からスペインやポルトガルなど、地中海沿岸の国でお酒のおつまみの定番や料理の材料として食されてきた「ルピナス豆」という豆をご存知でしょうか? ルパン豆とも呼ばれるこの豆が大豆に代わる持続可能な社会に欠かせない食材として注目されています。今回は、そんなルピナス豆についてご紹介します。

2025年~2030年には始まる?タンパク質危機

2025年~2030年には始まる?タンパク質危機


ルピナス豆の紹介の前に、そもそも大豆やルピナス豆が注目されている理由は何でしょうか? まずはその背景を見ていきましょう。


日本では少子高齢化で人口が減少していますが、世界の人口は増加しています。国連の推計によると、2030年までに世界の人口は85億人に達し、2050年には97億人に増加するものと予測(※)。そこで危惧されているのが、タンパク質の需要拡大に対して家畜の飼料となる穀物などの供給が追いつかず、世界中でタンパク質不足が起こる「タンパク質危機」です。


タンパク質危機は2025年~2030年には始まる可能性があると示唆されています。タンパク質危機の解決策として考えられているのは以下のようなものがあります。


大豆などの植物由来の代替品で肉のような味を再現する「代替肉」、動物の細胞から食肉を培養する「培養肉」、飼料負荷が小さく温室効果ガスの排出も少ない「昆虫食」です。


まず、代替肉は肉の代替となる食品で、植物性の原料から作った肉のような食品(プラントベースフード)も代替肉です。代替肉の素材として最も知られているのが「大豆ミート」で、ひよこ豆やレンズ豆も代替肉の素材として注目されています。


培養肉は代替肉の一つで、動物の細胞を大概で組織培養することで作られる人工肉を指します。無菌状態で組織培養するので細菌やウイルスによる汚染リスクが少なく、普段私たちが食べている畜産肉に比べて食中毒のリスクを低減することができるとされています。日本を含めて世界の多くの国ではまだ一般販売は認められていません。


少し前に話題になった昆虫食も代替肉の一つで、特にコオロギ食が昆虫の中でも栄養価が高いことから注目されています。昆虫食は群馬や長野、岐阜、宮崎など一部の地域では伝統的な食文化として現存しています。


ほかにも代替肉として、微生物や藻類、きのこの菌糸から作る代替肉などが研究・開発されています。


大豆に代わる救世主? ルピナス豆とは?

冒頭でご紹介したルピナス豆も肉や乳製品などの代替食の原料として 注目されている食材の一つです。原産地はエジプトや地中海地域、北アメリカとされていますが、栽培地域が広がり、今ではオーストラリアが最大のルピナス生産国になっています。


ルピナス豆は豆科ルピナス属の植物。花は小花が咲き上がる様子がフジを逆さまにしたように見えることから、日本では「ノボリフジ」とも呼ばれ、「ルピナス」と言えば花を思い浮かべる人も多いかもしれません。


ところで ルピナスという名前の由来には諸説あります。 中村浩『園芸植物名の由来』によると、ギリシャ語の“lupe(ルーペ)”が由来で「悲哀」を意味します。ルピナスの豆は噛むと苦く、食べた人が思わず顔をしかめることからきているとされています。


一方で、オオカミを意味するラテン語「lupus(ループス)」に由来するという説もあり、「どんな土地にも育つたくましさからの連想」とされています。いずれにしても、「苦豆」で「たくましい植物」であるというのは事実です。


欧米では大豆の風味が気になると言われて、中には苦手とする人もいますが、ルピナス豆はニュートラルな風味なのでより万能の食材です。栽培環境についても大豆は温暖な気候が必要ですが、ルピナス豆は寒暖の差に強く、窒素肥料が必要な大豆に比べてほとんど窒素肥料を必要としません。大豆アレルギーのアレルゲンを持たないため、多くの大豆製品の代わりとして活用できます。遺伝子組み換え品種も今のところはありません。以上が、ルピナス豆が「大豆にとって代わる」食材として注目されているゆえんです。


ルピナス豆のネガティブな点としては、アルカロイド(苦み・毒性成分)を持つ種が多いので、日本ではアルカロイドの含有率がネックとなりヒト食用として輸入規制がありますが、タンパク質危機の救世主として注目されている食材のため、 海外では企業がこぞって低アルカロイド品種の開発に取り組んでします。そして、 ハッコウホールディングスが、日本で初めて低アルカロイド品種(苦みや毒性成分の低い安全な品種)の開発に成功しました。また、東北大学と共同で、大豆 やルピナス豆など豆類の温室効果ガスの削減についての研究も行っています。


日本ではなじみのなかったルピナス豆ですが、代替食として食卓に上る日もそう遠くはないかもしれません。


参考文献・サイト

中村浩『園芸植物名の由来』(東京書籍、1981年)


※国際連合広報センター

https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/social_development/population/

堀池沙知子(Sachiko Horiike)

東京外国語大学卒業、一橋大学大学院社会学研究科中退。新聞社系エンタメサイトで記者を務めたのちにライフスタイル系メディア(ウートピ等)で編集者兼記者として従事。女性の健康、ライフスタイル、ジェンダーについての取材執筆を行う。