スーパーやデパートで買い物をするときにマイバッグを持っていくのは今や日常の光景になりました。人がいない部屋の電気やエアコンのスイッチをこまめに消すのも「電気代がもったいない」という理由のほかに「エネルギーを無駄にしない」という理由もあるのではないでしょうか? 国連がSDGsを掲げて10年近く経過しますが、私たちの日常生活のあらゆる場面でSDGsや持続可能性という言葉が浸透しています。
持続可能な社会を考える上で、食糧問題も大きなトピックスの一つですが、世界中でタンパク質不足が起こるタンパク質危機とその対策についても注目されています。そこで、今回は持続可能な社会とタンパク質危機について考えたいと思います
SDGsとタンパク質危機
2015年に国連が掲げた「2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標(SDGs)」は貧困や環境問題、食糧不足といった課題に取り組む17の目標からなりますが、これらはすべて私たちの生活の質や未来と結びついています。特に「飢餓をなくす」や「持続可能な生産と消費」は、食料の確保や食の安定供給に直結する課題です。そして今、注目されているのが「タンパク質危機」です。
国連の推計によると、2030年までに世界の人口は85億人に達し、2050年には97億人に増加するものと予測。タンパク質の需要拡大に対して家畜の飼料となる穀物などの供給が追いつかず、世界中でタンパク質不足が起こるとされています。
「肉がないなら増やせばいいじゃない」とならない理由
「タンパク質が不足するなら肉を増やせばいいのでは?」と思う人もいるでしょう。しかし、現在の畜産の方法は地球の環境に大きな影響を及ぼしています。
乳製品や肉を生産する畜産業は、メタンや二酸化炭素といった温室効果ガスを大量に排出しいています。特に牛の飼育では、消化過程で発生するメタンが大気中に放出されます。メタンは二酸化炭素よりも地球温暖化への影響が約25倍も強力と言われており、これ以上の畜産業の拡大は気候変動への深刻なリスクとなります。
また、畜産業には広大な牧草地が必要です。また、飼料用の穀物を栽培する必要があり、炭素を吸収する役割を担う森林が伐採されます。そして畜産には大量の水が必要で、水資源が乏しい地域にとっては環境負荷となります。
もう一点、従来の畜産業が見直されている背景には環境問題のほかにアニマルウェルフェアの観点も重要です。アニマルウェルフェアは家畜の身体的・心理的状態を指します。これまでは生産効率のために自然では摂取しない穀物を動物に与えたり、狭いケージなどストレスがかかる環境で飼育するなど動物が苦痛を感じる環境で育てるやり方が一般的でしたが、最近は「動物への苦痛を最小限に」という動物福祉の考え方が世界中で広まっています。
多くの企業が研究・開発に取り組む「代替肉」
タンパク質危機を乗り越える対策としては植物由来の原料や細胞培養技術を活用した「代替肉」も検討されており、多くの企業が代替肉の研究や開発に取り組んでいますが課題もあります。
代替肉の味や食感は改良が重ねられて向上してきてはいますが、消費者の視点で見たときに本物の肉と比べて風味など満足度が劣っている声もまだまだ少なくないのが現状です。また、特に培養肉は生産コストが高く、大量生産が難しいのが現状です。
代替肉の植物由来の原料といえば「大豆」が」真っ先に思い浮かぶ人も多いと思います。大豆は良質なタンパク源で「畑の肉」と呼ばれ、脂質、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく含む完全栄養食ですが、一方で大豆アレルギーの問題や欧米では大豆風味(soy flavor)が苦手という声も。また、豆類全般に言えることですが、消化吸収されにくいという弱点もあります。
スタートアップ企業の「ハッコウホールディングス」は大豆と同等のタンパク質量を含みながら食物繊維が大豆より豊富なルピナス豆の低アルカロイド品種(苦みや毒性成分の低い安全な品種)の開発に日本で初めて成功。また、 豆類を独自の技術で発酵させることで、消化吸収されやすく、よりうま味が多い食品を開発しています。特にルピナス豆は大豆にとって代わるのでは? と言われる注目の食材です。
そう遠くはない未来に訪れるとされているタンパク質危機ですが、国や企業を挙げての取り組みから目が離せません。
参考文献・サイト
飯田薫子・寺本あい監修『一生役立つ きちんとわかる栄養学』(西東社、2019年)