発酵食品

発酵は難しくない!うれしくておいしい発酵食品の基本とは?

日本において重要な食文化として歴史を重ねているのが「健康食」。その中身を考えるにあたって必ず登場するのが「発酵食」というキーワードです。漬物、納豆、ヨーグルトなど、私たちの日常の食卓に当たり前のように登場するため、身近な存在だと感じる方は多いことでしょう。しかしながら、発酵というものがどういう仕組みなのか?なぜ健康食として大切にされているのか?を説明できる人は少ないかもしれません。


もし今の段階で詳しく知らなくても、無意識のうちに発酵食を取り入れられていることは素晴らしいことです。しかし今回をきっかけに、発酵についての基礎知識をマスターして、より健康的な食事を実践できるようになったり、これまで食べたことのなかったおいしい発酵食と出会えたりしたら……。食の幸福度が高まることは間違いありません。


そこで今回は、発酵のキホンを気軽に学んでいくことにしましょう。「発酵は難しくない!」という想いをこめて、発酵のしくみや私たちにとっての嬉しいメリットについてわかりやすく説明をしていきたいと思います。

発酵とは?~発酵食品は、微生物の働きによって作られる安全性の高い食べ物

さまざまな発酵食品

(写真:さまざまな発酵食品)

まず食の世界における発酵の定義をおさえておきましょう。発酵とは、食品の中に微生物が増えることによって起こる変化のこと。同じように微生物が増えることで起こる「腐敗」はヒトにとって有害であるもので、発酵は安全性が保たれていることがポイントになります。


発酵食品によって活躍する微生物は異なります。日本食に欠かせない醤油や味噌などの調味料、日本酒や焼酎など酒類は、麹菌によるもの。ヨーグルトや漬物は、乳酸菌。納豆のねばねばと風味を作り出すのは、納豆菌です。


はじめに覚えておきたいのは、発酵食品は私たちにとって安全性の高い食べ物であり、発酵食品の種類によって活躍する微生物が異なり、旨味や健康効果も多様であるというということです。


発酵食品が世界中で愛されている理由とは? ~健康によいだけではない3つの理由

発酵食品と聞くと日本ならではの食文化ではないかと想像するかもしれませんが、実はそうではありません。チーズ、ワイン、ナンプラー、アンチョビ、ザワークラウト、ナタデココ……海外にも多種多様な発酵食品が存在し、長く広く愛されています。


それでは、なぜ発酵食品がここまで世界中で愛されているのでしょうか? ヘルシーだから、という答の枠にははまりきらず、主に3つの理由がありますのでひとつずつ見ていくことにしましょう。


①保存性が高まるから


微生物界の基本ルールとして、ある環境下で特定の微生物が一定数以上いる場合、他の微生物が繁殖しにくいということがあります。つまり、発酵菌が優位な状況では腐敗の原因になる微生物が増えにくく腐りにくいのです。また発酵菌が作り出す乳酸、酢酸、アルコールには殺菌効果があるため、雑菌の増殖を防いで長期保存が可能になります。イタリアなどでクリスマス時期に食べられる伝統菓子「パネットーネ」が、未開封であれば常温で2か月から半年ほど日持ちがするのもこの理由によるものです。


イタリアのクリスマスの定番「パネーネ」

(写真:イタリアのクリスマスの定番「パネーネ」

②栄養の向上・改善に役立つから


発酵菌は増殖・生育によって、食品中の栄養が変化して機能性成分やビタミンなどを作り出す働きがあります。例えば納豆。原材料の煮大豆と比較して、ビタミンB2は約10倍に、葉酸は約3倍に、ビタミンK2は120倍になると言われています。


また食品に含まれる有用な成分を体内に吸収されやすくする働きも。納豆や味噌の場合、大豆に含まれるイソフラボンを体内に吸収されやすいように変換してくれます。またヨーグルトは、牛乳に含まれる乳糖(日本成人の6割が不耐症)が発酵によって変換されることで、腸がゴロゴロしたり下痢をすることなく、カルシウムやたんぱく質の摂取を可能にしてくれています。


③おいしくなるから


発酵は風味や香りに良い変化をもたらします。その代表的なのが、アミノ酸、イノシン酸、グアニル酸などの「うま味成分」。食品に含まれるたんぱく質を分解することでうま味の素になるアミノ酸を作り出すことに。またいい香りにつながる「香気成分」も産生してくれます。かつお節をイメージしてみてください。生の鰹よりもコクや旨味があり、お出汁の芳しい香りをもたらしてくれるのは、まぎれもなく発酵のおかげなのです。


発酵はなぜ体に良いのか?実はきちんと知られていない2つの理由

それでは次に、私たちの健康を考える上で欠かせない存在として大切にされているのはなぜなのでしょうか?体に良いという側面から整理してみると、主に2つの理由があげられます。


①微生物を体内に直接取り込むことができるから

プロバイオティクスという言葉を聞いたことがあるでしょうか? これはビフィズス菌や乳酸菌などヒトの腸に存在してヒトに有益な効果をもたらす微生物のこと。私たちはこのプロバイオティクスをとり入れることで腸内環境を整え(良い菌を増やし悪い菌を減らす)、免疫系・神経系の調節に役立てることができます。


②体に吸収されやすい状態にしてくれるから

発酵菌が食品に含まれる成分を分解することは、体内に入った時に栄養素として吸収されやすくなることにつながります。飲む点滴と呼ばれる甘酒は、発酵の工程で米のでんぷんがグルコースや麦芽糖に分解されているために体内に吸収されやすくなります。またオリゴ糖にも分解されるため、腸内細菌のえさとして働いて便通改善につながる効果も期待できるのです。



以上、まずは発酵というメカニズムが、私たちにとってどのような働きをしてくれるのかについてお分かりいただけたかと思います。次回は、発酵の応用編。これもむずかしくはありませんからご安心を。発酵食品を選ぶ上で、知っておくと役立つトピックスを厳選してお届けしたいと思います。

スギアカツキ

食文化研究家。長寿美容食研究家。

東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。